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そして、私は我に返るようにはっと思い出し、ユーウェイン様に黒く微笑みかける。
「それよりも、ユーリ。私にひとつ嘘を吐きましたよね?」
「あー……そうでしたっけ?」
苦笑いを浮かべて視線を泳がせるユーウェイン様。私はますます黒い笑みが深くなる。
「とぼけないでください。昨日も今朝もあれほど自室で大人しくしていてくださいとお願いしたではありませんか! チェルシーさんのお説教は長いから嫌なんですよ!?」
「レティお姉さま……9割型本音はチェルシーさん何ですね」
「当たり前です。チェルシーさんは何だかんだで、ユーリに甘いし私も甘いから毎回こんな目に会うのだけども! 毎回ユーリの代わりに怒られるのは私なのですからね!」
すべて言い終えるとすっきりした。ユーウェイン様がどこへ行こうとするのは勝手だ。
だが、エプシュタイン家の現当主、ユーウェイン様の父、ジェイコブ=F(フレイ)=エプシュタイン様からの許可が下りない限り、出かけるのは出来ないのだ。
しかし、残念なことにユーウェイン様は放浪癖があり、外へよく一人で遊びに行っている。領民たちの視察だという名目にしながらの遊びだ。
そんなユーウェイン様をお仕えしてから早7年。いつも探し出す羽目になるのは決まって私なのだ。
「それは……毎回、ご迷惑をお掛けします、レティお姉さま。だけど、今日だけはお許しを頂きたいです」
私の手をとりそう告げるユーウェイン様。先からあざといその笑みは何か。態とやっているのだろうか。翡翠の双眸が私に訴える。
今回も負けないと見つめるのだが、数秒、数分経っても真っ直ぐに見つめ返される。私は深いため息をひとつ零す。完敗だ。
「……はあ、今回だけですからね。ですが、どうかお願いです。夕方までには屋敷へお戻りください。その間までは甘んじて、目を瞑りますから」
左目を一瞬瞑り参ったと白旗をあげる。すると、ユーウェイン様はぱあーっとますます表情を明るくなり、嬉しさのあまりか掴んでいた私の手を左右に振る。
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