01.2036年

2/23
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/255ページ
(まあ別に良いの。わたしもそのうち大きな発明をして世の中を変えて見せるんだからさ)  複雑な内心を上手くなだめすかし、五輪は車窓から目を切ってフロントガラス越しに車の進行方向に目を向けた。整備された車道を、車は淀みなくスムーズに進んでいく。 「ねえエマ、あと家までどれくらい」  五輪は自分を除くと無人の車の中で、前方のモニターに向かって声を発した。 「12分と40秒ほどです」  前方のモニターから返事がある。機械的な響きは抜け切らないが、女性らしさを感じさせる声だ。 「ありがと、りょうかい」  五輪はエマに短く返事をした。  自動運転車の市場シェアナンバーワン商品、『ビーグル』。アメリカの巨大IT企業が開発したビーグルは世界中の先進国に爆発的に普及し、一気に自動車運転の無人化を推し進めた。それは日本も例外ではなく、2020年代に入った頃にはすっかり無人運転が常識となった。  五輪も物心ついた頃には既に無人運転が当たり前となっていたため人が運転する車には乗ったことがなく、それは学校の授業で習う過去の歴史上の出来事でしかなかった。人が車を運転していた時代があったということを初めて知ったときには、昔の人はそんな危ないものによく乗っていたな、と思ったことを五輪はよく覚えている。     
/255ページ

最初のコメントを投稿しよう!