01.2036年

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01.2036年

 車窓から見上げた街中の空を、小型の飛行体がボディを日光に煌めかせながら飛んで行った。夏を間近に控えた六月。東京の街は梅雨の気配も見せず、早くもうだるような猛暑の夏を予感させていた。 「はあ、お金持ちは良いな」  高校での授業を終えた帰路の車中で、晴海(はるみ)五輪(いつわ)はスモークガラスの窓越しに、悠々と遠ざかって行く機体を恨めしそうに見送った。  ビルとビルの合間を縫うように進むその物体はプライベートドローンと呼ばれている。元々は小型の無人航空機として普及したドローンだが、目まぐるしい技術の発展により有人飛行も可能となった。その後、一般の個人が使用できる空の交通手段として二、三年ほど前から本格的に普及し、街中でその姿を見始めるようになっていた。  ただ、一般に普及し始めたと言ってもまだまだその価格は高価で、決して裕福な家庭に生まれ育ったとは言えない五輪には到底手の届かない存在だった。 「ちぇっ」  五輪にとってそれは憧れの存在であると同時に、富裕層の人間たちに選民意識を見せつけられているような、そんな気にさせられる存在でもあった。     
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