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 ヘッドマウントゴーグルの超軽量型コーンシューマデバイス『U-Link』が普及して十余年。VR(ヴァーチャルリアリティ)の文化は爛熟し飽和して、現実も仮想空間も敢えてそこに厳密な境界線を感じる時でも無くなっていた。目に見えるものが確かであれ不確かであれ、物事の価値というのは各々の心に宿る譲れない信仰。そう、それが唯一無二の定規だ。  芳生は朝一に目薬を4種類点眼する。命の水を目頭から眼球裏まで、満遍なく栄養が染み渡るのをベッドの上で恍惚と感じ取っていた。  弱視の芳生の目には常にコンタクト型のガジェットが付いている。この特殊なコンタクトが、本人に変わってピントや調光の調節など勝手に行ってくれる。人工の筋肉のようなものだ。もちろん医療用具である。不具の目はもうかすかな明かりすら、裸眼では感じ取ることしか出来ない。  文明の利器が、今日も窓越しに差し込まれる朝日を認識させる。  偽りの世界のリアル。偽善も善意の内と良く思うが、それと大差ないことなんだろう。  「学校行かなきゃ……」 虚ろな声色で学校の準備支度を始める。
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