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桜吹雪が晴れた時、サクラの木の根元から顔をのぞかせていたのは、頭ほどの大きさの石だった。もちろんただの石ではない。写真にまとわりついたものと同じ、どす黒い『何か』をその全身から放っている。
義明は私を背中でかばいつつ、慎重に石に近づいた。
「邪気の正体はこれか」
つるりとした石の表面には、小さな文字がびっしりと刻まれていた。私も気になって、義明の背中越しに覗き見る。
「うわっ……」
思わず引いてしまった。なにしろ、刻まれていた小さな文字はすべて呪詛だったのだ。土地を穢し、生物に悪しき影響を与える言葉が地中には埋まっていた。
「どうするのよ、これ」
「どうする、って清めるしかないだろ。幸い、今日は香も持ってきている」
「いや、そうなんだけど……あんたの手に負えるとは思えないというか」
義明の霊力の強さ、そして対魔師としての素養は折り紙付きだ。でも、浄化という行為自体、彼はあまり経験したことがない。ましてやこんな大物、ベテランでも難しいわよ……。
非常に言いづらいけど、私はそのことを正直に伝えた。すると義明はああ、と素直にうなずいた。
「力不足は分かってる。でも、この邪気だ。対処は早い方がいい……他に被害が出るかもしれん」
その言葉に私は頭をガンと殴られたような気がした。
私の知ってる若松義明はそういう男だったわね。面倒くさがりで目つきが悪くて、無愛想。だけど、誰よりも『誰か』のことを思っている。
私は守り刀だ。ならば、やることは一つだけ。
「分かったわ。もしあんたがしくじっても、私が守ってあげるわよ」
ばーんと胸をたたいて言ってやったら、義明は眉間の皴を深くした。
「縁起でもないことを言うな」
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