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「あなたのご主人は軍人だった。この写真は戦地に赴く前に、彼があなたに渡したものだったんでしょう」
義明が写真を女性――さくらに見せると、さくらは思わずといった様子でそれに手を伸ばした。
「写真の苦手なあの人が私のためにわざわざ撮ってくれたものだったの……。片時も手放していたくなくて、いつも持ち歩いていたわ。そう、あの日も……」
さくらは一度言葉を切った。彼女の瞳に雫があふれ、煌めきながら零れる。私はそっと、彼女の目元を拭った。傍らに寄り添って、少しでも彼女が安心できるように。
義明はさくらと目線を合わせると、まっすぐに彼女を見つめたまま言った。
「辛いと思いますが……聞かせてください。俺たちはあなたを救いたい」
未練を断ち切るためには、その人のことを知らなければいけない。何を思って生を閉じたのか、何に囚われているのか。
それを知って、考えなければいけない。対魔師として私たちができることを。
義明の思いが伝わったのか、さくらは小さくうなずいて口を開いた。
「彼が戦地へ行ってから、初めて迎えた桜の季節でした。私は彼と桜を見るのが楽しみで、毎日のようにここにきては、一人で花を眺めていました」
その時、空から音が聞こえてきたという。彼女の耳には、周囲の音を全てかき消してしまうほどの飛行機の音。そして、逃げろ、と叫ぶ誰かの声が届いた。
次の瞬間。
「鉄の雨が、降りました。ものすごい衝撃に私の体は吹き飛ばされて……気が付けば、木の根元に倒れていました。足も手もぴくりとも動かなくて、ただ体が燃えるように熱かったことだけ覚えています」
薄れていく意識の中で彼女は悟った。もう自分は助からない、と。そして強く思った。
「約束を守れなくて、ごめんなさい。一緒にあなたと……桜を見たかったのに」
どうして私は先に逝ってしまうの。もう一度あなたに会いたいのに。
「そしてあなたの悲しみと後悔は地に根付き……あなたは霊となったのね」
私が彼女の続けようとしていた言葉を引き取ると、さくらは儚い笑みを浮かべた。
「あの人だってもうとっくに、この世にはいないというのにね。何回も、諦めて離れようとしたわ。……でも、なぜかできなかったの。何か強い力に縫いつけられているみたいに、ここから離れられなかったの」
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