守り刀と対魔師と呪われた桜の木

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 すっと目を閉じ、握った彼女の手のひらに意識を集中する。小さい針穴に一本の糸を通すように、彼女の記憶の奥深くまで届くように。私は自分の霊力を操り、彼女の思いを探った。 「満開の花。桜吹雪。木に寄りかかってるのは……ご主人ね。あなたを呼んでいるのかしら。手招きしてる。お弁当おいしそう。おにぎり、一つだけ大きい。ご主人が作ったのね。ちょっと恥ずかしそう」  頭の中に流れ込んでくるイメージをそのまま言葉にしていく。とりとめもなく紡いだ言葉は義明の手によって具現化する。 「……今日花。もういいぞ。イメージはできた」  そう声をかけられて目を開けると、義明が優しく微笑んでいた。よかった。ちゃんと伝わったみたいだ。 「あの、いったい何を?」  状況がつかめないさくらさんの背をぽんと押し、桜の木に注目させる。  義明は一度深呼吸をすると、瓶のふたを開けた。 「空の力、地の力。我の願いに応えたまえ。具現化せよ、彼女の縁を」  ぼんやりと瓶の中身が淡い光を放つ。それを義明は手のひらに移すと、空にまいた。日の光を受けて粒は一層輝き放ちながら、重力にしたがって地に落ちていく。 「夢想写術!」  義明がぱん、と手のひらを合わせると強い風が吹いた。私の目の前をひらりと薄く色づいた花びらが舞い落ちる。 「桜が、咲いた……」  満開のシダレザクラ。私がさっき見た、彼女の願いそのままの風景だ。
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