守り刀と対魔師と呪われた桜の木

11/12
56人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ
「今日花、どうだ?」 「とても綺麗な空気よ。さくらさんの『幸せ』がいっぱいに溢れているわ。……そろそろ、いいんじゃない?」  私がそう伝えると、義明はこくりとうなずいた。瞬間、満開だった桜の花は、ぱっと散る。元の新緑の色が目にまぶしかった。  夢想写術の効果が切れた。彼女の横にあった影もまた、花と同じように光に溶けて消えてしまった。 「大丈夫?」  私は術を終えた義明に尋ねると、彼は少し額に汗を浮かべたまま頷いた。すぐに義明は、光を見送る桜さんの元へと近づいていく。私も後を追った。 「さくらさん。……これをどうぞ」  義明が言葉と共に差し出したのは、桜の枝だった。枝の先には桜のつぼみがいくつか付いていて、今にも花開きそうな様子でふくらんでいた。 「これは俺が術で作った桜の枝です。……幻じゃなくて、本物ですよ」  義明はそう言うと、さくらさんに枝をしっかりと持たせた。 「これは俺からの贈り物です。向こうで、ご主人と一緒に眺めてください」 「術で作った桜だから、向こうにも持って行けるわ。ちょうど着く頃には花が咲きそうね」  私も桜の枝に手をそえ、祈りをささげる。きれいな花が咲くように、と。 「ありがとうございます……。私、とても幸せです……」  さくらさんは目の端に涙を浮かべながら、それでも綺麗に微笑んだ。 「もう、大丈夫みたいね」  彼女の晴れやかな表情を見て、私は義明の背中をぽんと押した。わかっている、と義明は言うとポケットから札を一枚出した。それをさくらさんの前に掲げ、そっと目を閉じる。 「大いなる天の力よ、その光で導きたまえ。――迷いなく、彼の元にたどり着くように」  温かい風が吹いた。風はさくらさんの体を包み込み、彼女の体は徐々に光へと溶けて、消えていった。 「……ふう」  風がやみ、後には風に葉をなびかせる桜の木と私たちが残った。 「お疲れさま。なかなかの対魔だったじゃない」 「……そりゃどうも」  小さく息を吐いた義明をねぎらうと、珍しく義明は素直にそれを受け取った。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!