55人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ
「ところで、今日花。今回の件、なんか変じゃないか?」
使った道具の後片付けをしながら、義明が不意にそんなことを言った。
「未練が残ってあちらに行けない霊なんて、正直な話ありふれてる。俺だって今まで何回か夢想写術を使って対魔してきた。だが……悪霊化していたのは初めてだ」
「確かに。さくらさんだって綺麗な魂の持ち主だったし、悪霊化するなんて到底思えないわね」
私が答えると、義明はちらりと桜の木の根元に視線を向けた。私もそれを追う。
私たちの視線の先には呪詛のびっしりと刻まれた石が落ちている。今はもう、先ほどまでの強い邪気は感じない。
「十中八九、これが原因ね」
「ここに刻まれた呪詛が、さくらさんの魂を乗っ取って悪霊化させた、か」
「ええ。しかも刻まれた文字はくっきりとしていて、まだ新しい。埋められたのは最近ね」
一体だれがこんなことを。私と義明は顔を見合わせて、うーんとうなった。
「……まあ、あとはベテランに任せよう」
それが賢明かもね。義明はポケットからスマホを取り出すと、陰陽寮の番号を呼び出す。
「もしもし、若松です。筆頭を……」
それを背後に聞きながら、私はもう一度石に触れてみた。
「何も感じないか」
ひんやりと冷たい感触が指先に触れる。ただそれだけだった。
「よし。帰るぞ」
電話が終わったらしい。義明の声が私を呼ぶ。
「今日の夕飯なににする?」
「あー。スーパー行ってから考える」
いつも通りの他愛のない会話をしながら、私は本日の夕食に思いを馳せるのだった。一仕事終えた後は、ご飯がおいしいもんね!
最初のコメントを投稿しよう!