守り刀と対魔師と事件のはじまり

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守り刀と対魔師と事件のはじまり

『本日夕方、陰陽寮に顔を出せ』  そんなそっけない連絡が私たちの元にやってきたのは、昼休みも終わりかけの時間だった。  私と義明は顔を見合わせると、お互いに渋い顔をしながらため息をついた。断るという選択肢はそもそも存在していない。私たちは陰陽寮の力で生きているのだ。命令を聞かないわけにはいかない。  そんなわけで、私たちは街の中心部の高層ビル街にやってきていた。  立ち並ぶビルの中でもひときわ目立つ赤銅色の地上二十五階建て。そこが目的地だ。  私たちは堂々とした足取りでビルの自動扉をくぐる。  オフィスで働く会社員の横を何食わぬ顔で通り抜け、エレベーターホールの一番奥のエレベーターに乗り込む。義明が操作盤に手をかざすと、淡い光を放ち新しいボタンが浮かび上がった。二十階と二十一階の間、『20.5階』の文字がオレンジ色に光る。まもなくエレベーターはゆっくりと上昇しはじめた。  義明を見るととても嫌そうな顔をしている。眉間の皴はいつもの二割増しだ。それは私も同じだけど。ものの十秒もしないうちに、エレベーターは20.5階に到着した。  ドアが開き、目の前に広がるのは複合ビルによくある普通の会社の受付の風景だ。擦りガラスで中が見えないようになっているドア。その前には『御用の方はこちらで御呼び出しください』という言葉と共に内線番号が書かれた看板。小さなテーブルの上には電話が置いてある。そして壁に書かれた社名は……『陰陽寮』。隠す気があるんだか、ないんだか。  義明は電話をスルーして扉に歩み寄ると、ノブに手をかけた。 「解呪」  義明がひと言そうつぶやくと、目に見えていた風景がぐにゃりと歪んだ。さっきまで立っていた受付は姿を変え、目の前に現れたのは長い廊下。電気は一切なく、薄暗くてちょっと心もとない。廊下の両側の壁にはプレートが貼られた扉が並んでいる。『会議室』や『休憩室』のような普通の会社にありそうなものから、『天文室』や『暦室』みたいな特殊なものまで種類は様々だ。
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