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部屋から出ると、すぐに目に飛び込んで来たのは下りの階段だった。視線を巡らせると、他にもドアが三つ見えて、内一つは小窓が付いていてドアの左にスイッチがある。トイレのようだった。男は実家暮らしみたいだ。大学生だし、遠方から通うわけでもなければ普通かな。
恐る恐る階段を下る。水が流れる音と、テレビだろうバラエティー番組のような賑やかな音声が漏れている。
家族の誰かがいるんだ。どうしよう。
「あっ、起きたんだ。おはよー」
掛けられた声に驚いて、肩が跳ねた。声は後ろから聞こえた。振り返ると、俺よりいくつか年上に見える女性がいた。
「驚かせちゃった? ごめんごめん」
「い、いえ。おはようございます」
「お腹すいたでしょ? ってゆうか周平の奴まだ寝てるんだ。叩き起こすか!」
そう言って豪快に笑う姿は、俺が持っている女性像をものの見事に打ち砕くものだった。 唾すごい飛んでるんだけど……。
「気持ち良さそうに寝てたんで放っといてあげて下さい」
「そ? ええと君は……」
「有井です。有井拓真。……周平君とは大学が同じで」
確か周平って言ってたよなこの人。さすがに名前間違えてたら怪しまれるよね、多分。
「そうなんだー。いや何かさ、アイツがつるんでる連中とあんまりにもタイプが違くてさ。なんて言うか上品だし、美形だしさぁ。びっくりしたよ」
「いいえ、そんなこと――そういえば俺、昨日は何かご迷惑を掛けていませんでしたか?」
「何もないよ? あたしも会社の飲みで、ちょうど周平と帰りが重なってさ。でも周平が拓真君をおぶってるの見てたくらいだしね」
おぶられてたんだ、俺。……ちょっと、いやかなり恥ずかしいんだけど。
「こっちおいでよ。今日父さんも母さんもいて賑やかだけど気にしないで」
恐らくは周平君のお姉さんだろう。手招きされて戸惑いながらも人が生活する音がする部屋に足を踏み入れた。
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