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ペコリとお辞儀をして、食事の皿をキッチンに運んだ。
「ゆっくりしていけばいいのに~」と言ってくれる周平君のお姉さんにありがとうの意味を込めて会釈をする。
「それじゃあ、周平君。また大学で。本当にありがとうね」
鞄を手にして、玄関まで見送りに来てくれた周平君にお礼を言う。他の三人も一緒に玄関まで来てくれた。
「家まで送るよ。父さん、車の鍵借りるよ」
「傷付けるんじゃないぞ」
「分かってるって」
一泊、泊めてもらった上に車を出して貰うなんてさすがに申し訳なさすぎる。断ろうとして慌てて口を挟んだ。
「い、いいよ! せっかくの休みに」
「気にすんなって。じゃ、行ってくる」
「ついでに帰りにミニステップのバニラアイス買ってきて」
「じゃあお母さんはミックス」
「父さんはベルギーチョコ」
「ったく、うるせぇな! わかったよ。行ってきます」
何だかもうこれ以上、断るタイミングを失ってしまった。相変わらずテンポのいい家族の会話を聞きながら、顔が緩むのを感じてしまう。
「お邪魔しました」
改めて深くお辞儀をする。
「またおいでね、拓真君」
「いつでも泊まりに来なさい」
「もう、父さん、拓真君の事気に入りすぎ!」
「だって可愛いじゃないか」
――何だろう、この感覚。
味わったことの無い感覚。 胸が……むずむず? するような。
「ほら、もう行くからな! ……拓真」
「うん――え?」
腕を引っ張られて、玄関から外に出る。後ろから周平君の家族の声が聞こえて手を振り返した。
助手席に促されて席に着き、シートベルトを装着する。
車が発進して、自宅マンションの近くのスーパーを周平君に告げるとすぐに了解の返事がきた。
「それよりさ……大丈夫か?」
「え?」
「顔、赤いからさ。具合悪いんじゃないか?」
言われて、サイドミラーに目をやる。耳まで真っ赤に染まった自分の姿が目に飛び込んできて、とんでもなく恥ずかしい気持ちに襲われた。
見られたくなくて両手で顔を覆った。
「お、おい拓真?! 大丈夫かよ?!」
「へ、平気……気にしないで」
さっき周平君が、彼が知らない内に俺が彼を名前で呼ぶようになった時に顔を赤くしていたけど。
何で、俺まで。
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