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「やっぱり家まで送るから。スーパー近くなったら道案内よろしくな」
「え、いいってば!」
「ダメ。そんな熱ありそうな奴歩かせられねぇし」
「でも、」
「いいから」
熱があると思われてる。 俺も、早くその熱が冷めてくれることを必死に願ってるのに全然効果なしで。
周平君が俺の名前を口に出す度に顔が熱を持つのを感じてしまって。何、これ。意味わかんないよ。
何を話したのか覚えてないけど、本当に必死に冷静さを装ってそればかり気にしてた。
部屋に案内して、マンションで一人暮らしだと知った周平君はかなり驚いていた。
「いいなー。こんなとこに一人暮らし……うわ、しかも広っ。何部屋あるんだよ」
「3LDK。でも使わない部屋もあるし」
「すっげぇ! 羨ましいぜ……」
部屋を見渡して感嘆の声を上げる周平君を見ながら、思わず口に出していた。
「そうかな。俺は……周平君みたいに賑やかな家族がいるほうが良いなって、思ったよ。楽しくて、明るくて。家族ってこんなかなって思った」
そう、何の気無しに言ってからはっとした。俺は何を言ってるんだろう。
ぽかんと口を開けて俺を見詰めている周平君に気付いて余計恥ずかしくなった。別にこの生活に不満なんて無いのに。父親にも特別不満なんて感じたことがないのに。
惨めだ。
「拓真」
「何?……うわ、」
呼ばれて、反応してすぐに人の温もりに包まれていた。周平君に抱きしめられていた。
性欲に塗れてない。ただ俺とセックスしたいから、だから可愛がるとか、そんなんじゃない。
でもそれじゃあこれは何だって言われたら、俺には解らない。
セックスの無い、人との重なりなんて俺は知らない。
「周平、君」
「……俺さ、正直自分でもよくわかんねぇんだ。何でこんなに拓真のこと知りたいとか、冷たくされても構いたくなるんだとか。拓真は男だし、でも俺の周りのダチとは何か違くて」
抱きしめる力が強くなる。俺の手は、所在なさ気に垂らされたままだ。
「よくわかんねぇ、けど、――友達としてっつうか、近くにいても良いか……?」
耳元で言われて、今まで経験したことがないほど胸が高鳴った。
愛の告白を受けたわけでも無いのに。友達として、近くにいていいかって聞かれただけなのに。
そんなこと普通聞くもの? って感じだけど……
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