檻の中 (拓真視点)

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*** 「……拓、真」 「ただいま周平。いい子にしてた?」 「腹、減っ、た」 「はいはい」  破綻した関係は新たな関係を構築して今もここにある。  俺のマンションで、俺と周平は二人で生活している。 「周平、今日ね、お姉さんに会ったよ。今度結婚するんだってね。招待されちゃった。二人で参列しようね」 「……ああ」 「お姉さん、綺麗になるんだろうなぁ~」  周平の服一枚だって身につけられていない身体に指を這わせれば、周平の身体はビクリと反応した。 「……良いね。お姉さんは祝ってもらえて」 「……」 「男と、女だもんね。赤ちゃんも産めるし、家族が作れる。その赤ちゃんがまたおっきくなって、子供産んで、孫が出来て」 「……」 「……そんなフツウが、フツウの幸せが欲しい? ねぇ、周平」  周平の子を孕んだと言う女は流産したらしい。  俺が女の彼氏を誘惑して堕として、操って。ちゃんと調べさせたら、周平じゃなくて彼氏の子供だったみたいなのに。  彼氏も彼氏で俺と浮気したこと棚に上げて周平と寝た彼女を責めたみたい。  で、赤ちゃんは既にお腹の中で息絶えてたみたい。産まれる前に、お腹で死んじゃうことがあるなんて知らなかったよ。    赤ちゃんは可哀相だね。  俺みたいなクズがこんなのうのうと生きてて、まだいくらでも救いようのあった命が外界を見る前に死んじゃうなんてさ。 「周平、逃げたい?」 「……」 「……なんてね。ダメ。周平は俺から離れちゃダメ。絶対ダメ」  力の無い周平の身体をきつく抱きしめる。反応一つ無くて、まるで人形を抱いてるみたいだ。  今は、セックスで快楽を感じてる時くらいしか周平の表情が見れない。 「周平、……周平」  欲しいものは今この腕の中にあるのに。  決して満たされない思いを周平の身体にぶつけても、刹那的な満足感しか得られなくて。 ――いつか、そんな遠くない内に、言うから。  あの時周平に抱きしめられていた俺は世界一幸せだった。  それだけは、狂ってしまった今でも、確かに解るんだ。 end
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