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「ああ裏切った裏切った、周平が裏切ったぁ」
愉快で堪らないと言うように、腹を抱えて狂ったように笑う拓真。
原因は俺だ。
初めは良かった。
拓真はその辺の女じゃとても敵わないほど綺麗な顔をしているし、性別など忘れさせるほど気持ちの良いセックスをすることが出来た。身体の相性は多分、良かったんだろう。 拓真の中に精を吐き出すたびに、うち震えるほどの充足感に満たされていたから。
付き合い初めてそろそろ一年が経とうとしていたが、拓真の俺に対する執着の異常さに気付いたのはここ二、三ヶ月程の事だった。
拓真からのメールに五分以内に返信しないだけで、絶え間無く振動する携帯に寒気を感じたのが始まりだった。
前はそんな事なかったのに、深夜でも関係なく携帯は振動し、その異常さに、眠れないほどの恐怖を感じる事もあった。朝恐る恐る携帯を開くと、拓真からのメールの数がゆうに三桁を越えていたこともあった。
恐ろしくなって外出時に携帯の電源を切ったときなどは、帰宅したら俺の部屋の前のドアで何時間待ったのか、拓真が膝を抱いて寝ていた。
その日はさすがに放置するわけにもいかず、声を掛け部屋に入れた途端、喰われるんじゃないかと錯覚するほどの激しいキスをされ、萎える俺自身を無理矢理勃たせた拓真は、叫ぶように喘ぎながら何時間も腰を振り続けていた。
「足りない、足りない」と掠れた声で譫言のように言い続ける拓真は、もはや俺にとって恐怖の対象でしかなかった。
いつしか俺は、女を抱くことで気を紛らわすようになっていた。執着されることを考えると恐ろしくて、毎回相手を変え、身体だけの関係に留めるようにしていた。
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