鳥籠から見た景色

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「周平、出掛けるよ」  朝目が覚めると、すでに着替えを済ませた様子の拓真が目の前にいた。   「出掛ける……?」 「そ。もう来週はお姉さんの結婚式だから。さすがに結婚式にまで裸で何て参列させられないし、ちゃんとしたスーツくらい用意しないとね。髪も……ちょっとカッコよくしないとね」  結婚式。あの姉が結婚する。  俺より四つ年上で、顔はそこそこ恵まれているのに、性格が絶望的に大雑把で、料理のセンスが皆無で、俺より男みたいで、小さい頃はよく殴られて泣かされて、でも最後はいつも可愛がってくれる、大好物を俺に譲ってくれる、誕生日のプレゼントを欠かさない、大声で笑うその声が、ずっと大好きだった。    今、俺がこんな状況下にいるなんて夢にも思わないだろう。   「車で行くし、適当に顔洗って、服は用意したからそれに着替えてくれたらいいよ」 「……わかった」  拓真は不安じゃないのだろうか? 外出なんて、簡単に逃げ出してしまえそうなのに。 「周平は弟だから、ご祝儀はきちんとしないと駄目だよね……結婚式に参列するのなんて初めてだしよく分かんないなぁ」  俺がもそもそと着替えていると、傍らで独り言なのか話しかけてきているのか分からないが拓真がブツブツ呟いていた。  ご祝儀か。確か兄弟は五万円程度で良かっただろうか。調べようにも、今の俺には調べる術がないから拓真に任せるしかない。  着替えを終え、洗面台で顔を洗う。さっき拓真に指摘されるまで意識していなかったが、確かに髪が伸びている。前髪が目にかかっていて陰鬱さが増している。  ――前の俺はどんなだったっけ。  ヘアスタイルにもファッションにも気を遣っていた。筋トレも欠かさず、身体も引き締まっていたし、肌の色ももう少し褐色だったと思う。  今の俺は髪は伸びっぱなしで、拓真が髭を嫌うからそこだけは変わっていないが、身体つきも筋肉が落ちて明らかに痩せている。肌の色も青白く見える。  こんな俺の姿を家族が見たらどう思うだろうか。 「支度終わった? そしたら軽く朝ご飯食べて、行くよ」 「――ああ」  久し振りに日の光を直接浴びられるのに、全く心が弾まない。こんな姿を、誰かの目に晒さないといけないのが堪らなく苦痛だと思った。
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