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「また会ったな」
「?」
「……覚えてないのかよ」
喫煙室でタバコを吸いながら携帯を操っていると、どこかで見たような男に声を掛けられた。
「ごめん、あんまり人の顔覚えるの得意じゃなくて。……えぇと、」
とりあえず当たり障りなく謝ってみる。こいつの不機嫌そうな顔を見る限りでは、どうやら初対面ではなさそうだし。
「ついさっき、二限、隣座ったろ。俺は戸田周平。名前は言ってなかったよな。……アンタは?」
「戸田くん、ね。俺は有井拓真。うん、ちゃんと覚えたよ」
適当に返事をしながら煙草を味わう。タイプじゃない男に自分を売り込む必要もないし。
「有井、拓真か。……いや、アンタみたいな男がうちの学校にいるんだって知って、かなり驚いたんだぜ、俺」
「へぇ? それはそれは」
煙草を灰皿で潰して軽く手を叩く。かなり驚いたって、……どうせこの顔のことだろうけど。
こんな男に時間を使いたくなくて足早に去ろうと携帯を開く。
「あー。着信だ、ごめん。じゃあね」
耳に宛てた携帯からは何の音声も流れない。
チラと戸田くんを確認すれば、ぞんざいな扱われ方をされたと気付いたらしく憤慨してる様子だった。
あの横柄な雰囲気、王様みたいに思ってんのか、自分のこと。 多分、今までチヤホヤされ続けてきたんだろうな。
――ふふ。今ちょっといい気味かも。
後ろで何か喚いている男……何だったっけ? ナントカ君に背を向けて喫煙室から出る最中も、電話の向こうの透明人間くんにひたすら楽しそうに会話を続けてみた。
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