檻の中 (拓真視点)

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「ない」 「は?」 「携帯忘れた。じゃあね」 「……な、さっきお前携帯使って、おいこら、ちょっ、」  再びイヤホンを耳に嵌めて鼻歌混じりに目的地を目指す。  今日はどんな風に遊ぼうかなぁ。そろそろ前立腺開発でもしてあげよっか。もう女とのセックスじゃイケないように。  ああ。  人生って、なんか単調すぎて、たまに虚しくなっちゃうよ。 *** 「……いたた」  痛む腰に手を宛てて、よろけながら所々の電柱を頼りに家路に向かう。 ……ちゃんと家に向かえてんのかな、これ。下手に家から離れた場所にしすぎたかも。  今日の相手に、「俺と本気で付き合ってほしい」なんて言われて。  いつも通り「少し考えさせて」って言ってそのまま音信不通にしてやるつもりだったんだけど。 ―ユウキ、そんな事言って、……俺の前から消えるつもりだろう……っ!― 「……決まってんじゃん、そんなの。本当の名前だって知らないくせに」  めちゃくちゃに犯された。 何度も何度もイかされて、気持ちいいのか苦しいのか分かんなかった。先に男の方が失神してくれたからいいものの。あのまま万が一俺が気でも失ってたら間違いなく監禁されてたよ。――危ない。 「はぁ、道程は遠いなぁ……」  コンビニの明かりが少し先に見える。 入ったって欲しいものなんかないけど。何か安心してる、俺。馬鹿みたい。  少しずつ近付く店の明かりが何でか愛おしくて。 吸い込まれるみたいに、ドアを押して中に入った。ドアの重ささえ今の身体にはきついや。なんで未だに自動扉じゃないんだか、全く。  明るい店内に足を踏み入れてすぐ左に曲がった。雑誌や漫画が並べられた書籍のコーナーを横目で見て、アルコール類の保冷棚を見る。強い酒を煽ってシャワー浴びて寝よう。 「……有井?」 「え?」  呼ばれて反射的に振り返った。名前、忘れた。何だっけ?   大学のあのウザい男。 「何お前、こんな時間に」 「……そっちこそ」 「別に、俺は仲良いサークル仲間との飲み会の帰りだけど。……何だよ、酒なんか漁って。まさかこれから一人酒? 二時だぜ?」  缶ビールや缶チューハイが並ぶ冷蔵庫棚の前で並んで立たれた。こいつは一回会話したら友達なわけ? 人類みな兄弟っての?
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