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「ごめんね、あなたが悪者みたいになって」
友美さんの声が震えている。この人は、自分の息子にだけじゃなく、こんな赤の他人にまで涙を流せる人なんだ。
「幻滅、しましたか?
あの子、気付いていなくて…。ちゃんと愛されているのに、見向きもしない」
こんなにも温かい家庭にいるのに、それに気づきもしない。それがどれだけ幸せなことなのか、きっとアイツは知らない。
「幻滅、なんて、するはずないじゃない。
初めて見たときから、あなたを家族に迎え入れたかったの」
変わらない優しさをあたしにまで分け与えてくれる友美さん。そんな彼女の子どもであるひかるという少年は、どうして…。
ふと、前に聞いた妹の話を思い出した。その件で、彼はひねくれてしまったのだろうか。
「昔はね、あの子もあんな子じゃなかったの。
それはそれは、まっすぐでよく笑って、家族が大好きな子だった」
もう主がいない靴を見て、友美さんはいとおしげに話す。その時折寂し気な表情を浮かべるのは、今あまりにも変わってしまった息子に対して何か思うことがあるのだろう。
「優しい子なの…」
そのあと、友美さんはあたしに息子についてなにも語ることはなかった。
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