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1、 友野家
あたしを養子にしたいと名乗り出たのは、42歳の女性だという。
あたしとしては、乗り気ではなかったけれど、施設長が会ってみなさいと何度もいうから渋々会うことにした。
会うたびに言われたら、たまったものじゃないからね。
その人は、年の割にとても若そうに見えた。そして、とても優しそうな人だった。
でもわかっているんだ。会ったとしても、養子にしないし、愛されない。
だって、そうだ。いつだって、もらわれていくのは笑顔が素敵でかわいらしい女の子。
そあたしは、いつだって拗ねたような表情で、笑顔さえもない。
そんなかわいげのないあたしをだれがもらってくれるというのだ。
「はじめまして、私の名前は友野 友美。あなたのことは、写真を見てすごく素敵な女の子だと思ったの」
ほら、大人はすぐにうそをつく。あたしは、そんな言葉に騙されたりしない。
だから、面会の時間でも自分を売るようなことはしない。
「美空ちゃん、ごめんなさいね。私、まだあなたのことよく知らないから、教えてほしいな」
なんでこんなにも根気よく喋れるんだろう。不機嫌そうなあたしを相手に、彼女はずっと喋りかけてくれた。ずっとあたしのことを聞いてくれるのだ。
「何が好き?私はね、お料理大好きなの。おいしいって言ってもらえるのが何よりも幸せ」
「ハンバーグ」
「え、」
あたしが答えると、本人は目を丸くさせて驚いていた。答えるのが悪いことなのだろうか?
「ハンバーグが好きなのねっ。おいしいわね」
驚いたと思ったら、次は目に涙を浮かべながら笑っていた。忙しい人だ。
この人はコロコロと表情を変えることができる、とても感情が豊かな人だなと思った。
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