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「いや。十五年前に一度は『呼ばれた』らしい。でも、すぐに戻されてそれっきりさ……おい、そんな顔をするな。全員がそうなるとは限らないんだから。すぐに『呼ばれる』やつもたくさん見てきたぜ」
男が励ますような口調で言うが、僕は笑うことができなかった。
僕は長い間「待機所」にいた。待機所を出れば「呼ばれる」のだと思っていた。僕たちは「呼ばれる」ために生まれてきたのだから、一度は「呼ばれ」たいと思っている。中には繰り返し何度も「呼ばれる」猛者もいると聞くし、一度「呼ばれ」てから時間をおいてまた「呼ばれる」こともあるらしい。僕はどんなふうに「呼ばれる」のか、いつも想像していた。
そしてようやくここに連れてこられたのだ。それなのにすぐに「呼ばれ」ないかもしれないなんて信じられなかった。
「とりあえず、ボスに挨拶しに行こうや。悩んでたって仕方ないし」
男に促され、僕はボスのところに向かった。
十五年もここにいるというボスは、さすがに威厳のある風貌をしていた。しかし、着ているものは擦り切れてしまっている。
「初めまして。新しくここに来た者です」
僕はそう言いながら頭を下げたが、奇妙な感覚に囚われていた。初対面のはずなのに、ずいぶん昔から知っているような気がするのだ。ボスもどうやら同じ感覚らしく、僕の顔をしげしげと見ている。
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