透明な糸

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 その友人とは十年ぶりの再開だった。彼とは高校の同級生だったが、特に親友というわけではなかった。彼は小柄で色白の、にきびひとつない美少年であり、成績も非常によかった。特に理系の科目は図抜けており、数学、物理、化学、生物のどの分野に進んでも一流になるに違いないと言われていた。ぼくはといえば、その学校では唯一の彼の学業上のライバルといわれていたが、実際は英語や国語など彼が全く興味を示さなかった教科でかろうじて勝っていたにすぎず、彼のような天才肌ではなかった。しかし、それでもぼくたちはお互いに意識し、尊敬し合っていたと思っている。そしてぼくたちはそれぞれ一流とよばれる別々の大学に進み、それっきり会っていない。あるときの同窓会で、彼が大学院を出た後、ある化学繊維の会社に就職したことを別の友人からきいた。それが彼についての最後の情報だった。
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