屍へ、はなむけを囁く

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問い質したい事は山ほどあるが、とりあえずこの空腹を満たす方が先だと、大人しく席に着いた。 「いただきます」と小さくそう言いながら手を合わせた私に「どーぞ」とぶっきらぼうに返事をしたその人は、またキッチンへと戻った。 すぐに換気扇が回る音が聞こえてきた。 どうやら煙草を吸っているようだ。 喫煙者なのか、とどうでもいい感想を胸の中で呟く。 その人が微かに立てる音を聞きながら、目の前の朝食を平らげる事に集中した。 「全部食ったか?」 丁度全て食べ終えたところで低い声が掛かった。 「はい、ご馳走様でした。とっても美味しかったです」 発した言葉に嘘はなかった。 ベーコンもスクランブルエッグも、サラダも、野菜ジュースも。どれもこれも私好みの味付けで、正直驚いたほどだ。 「そうか。なら良かった」 口許に弧を描き、とても温かい音色でそう言うその人に、不覚にも胸がドキっと高鳴った。 思わず見惚れてしまったけれど、重ねていたお皿を下げようとした手を見て、ハっと我に返り慌てて椅子から立ち上がった。 「あのっ、私が片づけます」 「いいから、座っとけ」 「でも…」 「まだお前が喜ぶもん残ってるから」 「え?」 どうやらまだ朝食は終わっていなかったらしい。 意表を突かれてきょとんとする私の頭を軽くポンっと撫で「準備するから待ってろよ」と優しく告げたその人に、また胸がドキっとした。
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