屍へ、はなむけを囁く

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「映画でも見るか」 デザートも食べ終え、互いにマグカップを空にしたところでその人は次にそう切り出した。 「これ、俺の一番のオススメ」 そう言ったその人がリモコンを操作して流したのは洋画だった。 普段あまり映画を見ない私からしたらそれが有名なのかどうかは分からないけど「寝るの禁止な」と釘を刺されたから、大人しくそれを見る事に集中した。 その洋画は、小さな時に両親をマフィアに殺されたある女の子の復讐劇を描いたものだった。 復讐の為だけに命を注いできたその女の子は、殺し屋として生きていく事に人生を捧げてきたけれど、大切に思う男性と出会う。 殺し屋と生きていく以上、本名は勿論自分の素性を一切伝える事はできず、普通にデートすらする事も出来ない。 普通の人生を捨ててまでも、復讐する事に達成したその女の子は最後にその最愛の人に電話を掛ける。数十秒という時間で、二人は何を伝え合うのか。 男が聞いたのはたったひとつ。 “君の本当の名前は?” それだけだった。 今まで一度も、誰にも名乗った事のないその名前を口にした彼女に最後に男は告げる。 “愛してる”、と。 そこでエンドロールが流れ、映画は終わった。 「…っ」 もう最後の方は涙でよく見えなかった。 胸が火傷したようにヒリヒリと痛くて、たまらない。
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