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「心さん、もういいよ…」
こんな私、生きていても、意味ない。
「私を、捨ててっ…」
貴方が分からないのに。
貴方を思い出せないのに。
「私の事を心配してるなら、大丈夫だよ」
何が、奇跡なんだろう。
「だってっ…私、それすらも分からないっ…」
「…っ」
「心さんが居なくなった事すら、分からない…っ」
こんな無力で不甲斐ない私、どうしたら愛してほしいと乞えるのだろう。どうしたら傍に置いてほしいと懇願できるのだろう。
乱れた呼吸を少し整えてから、俯かせていた顔をゆっくりと上げた。
「心さんは心さんの人生を、生きて」
涙が邪魔して、もう何も見えない。私を見つめる愛おしい人の表情すら、分からない。
この人が…
心さんが、居ない世界。
それは差してくれていた光が無くなるように絶望的で、辿ってきた導が消えてしまうように悲観的なものだった。
“捨てて”と口にしている時でさえ、心は“抱き締めて”と叫んでいた。
「いつか、私じゃない人と、幸せに--…っ」
そんな矛盾した私が更なる矛盾を紡ぎ終える前に、唇に温かいものがぶつかるように重なり、それを遮った。
「…っ」
その温かいものが心さんの唇だという事に思考が追いついたのが先か、それとも唇を割って入ってきた熱い舌に驚いたのが先か。
驚きで身を引こうとする私の後頭部を引き寄せ、何度も角度を変えながら、それは深くなっていく。
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