屍へ、はなむけを囁く

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ゆっくりと身体を離した心さんは涙でぐちゃぐちゃになった私の顔を見下ろし、フっと優しく笑う。 そして長い指で落ちてくる雫を掬いながら、再び唇を動かした。 「それにこの毎日、そんなに悪いもんじゃねえよ」 「…え?」 首を傾げる私に心さんは笑みを深める。 片方の口角がニっと上がる、それは私の好きな笑い方だった。 「出会った時みたいに俺のヒゲを見てあからさまに顔を歪めるのも、俺が淹れたコーヒーを初めて飲んだ時と同じリアクションしながら飲むのも、俺のオススメの映画を見て何度も号泣してるとこ見んのも」 「……」 「全部、面白くてたまんねえから」 クスクスと空気を揺らして笑う。 その笑顔の下に、一体どれほどの辛さや遣る瀬無さを隠しているのだろう。 そう思えば思うほど、また涙が込み上げてくる。 「じゃあ、なんでっ…」 涙声でそう切り出せば、心さんは「ん?」と首を傾げて私の顔を覗き込んだ。 「なんで心さん、指輪してないの…っ?」 確かに結婚指輪は購入したはずなのに、心さんの左手の薬指には何も光っていない。 それが不満、というよりは…不安だった。 やっぱりこんな私を疎ましく思っているのではないかと、どうしても拭い切れない不安が顔を出してしまう。
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