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優しく細められた切れ長の瞳が私を見つめる。
「だからお前は何も心配すんな」
ぽんっと頭に大きな手を乗せ、私を安心させる為の言葉を吐き出す。
「…心さんの傍に居て、いいの?」
明日になれば貴方を忘れてしまう。そんな私が貴方の傍に居て、本当にいいんだろうか。
「私…心さんに何もしてあげられないよ…」
引いていたはずの涙がジワリ、と目に滲む。まるで水面のように揺れる視界の中、心さんは「そんなことねえよ」と優しく微笑む。
「純恋は毎日、俺の望みを叶えてくれてる」
「…望み…?」
無力で不甲斐ないこんな状態の私に、心さんの望みが叶えられるとは到底思えない。
眉を顰めた私の頬にぴとりと添えらえた大きくて温かい手。
「俺を覚えてるとか覚えてねえとか、そんなことは本当にどうでもいいんだ」
「……」
「ただ、純恋が生きてくれてさえいれば、それだけでいい」
「…っ」
まるで胸が軋むような痛さを伴う。目尻が焦げ付くほど熱くなり、視界がさらに歪む。
「“お前誰だよ”っていう不審がっている目でも、あからさまに怯えてる目でも、なんでもいい」
込み上げてくるそれを止められるわけもなく、つぅ…っと頬に伝う雫。
「どんな目でもいいから、その瞳に俺を映してくれ。…それが俺の望みだ」
貴方の望み。
それは、こんな私が貴方にしてあげられる唯一の事だった。
「明日も純恋が目を覚ましてくれたら、それ以上のことなんてねえよ」
それしか出来ない私を、それで十分だと抱き締めてくれる。その手はどんな時でも私を包み込んでくれる、唯一の手。
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