屍へ、はなむけを囁く

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「心さんっ…」 止め処なく溢れるそれを堪える事なく流し続けた。瞬きをする度にクリアになる視界で、愛おしい人を目に焼き付ける。 頬に添えられた心さんの手に自分の手を重ね、ギュっと握る。 コーヒーが苦手な私に、心さんはいつもミルクとガムシロップ、それからバニラエッセンスを入れてくれていた。コーヒーを飲んで美味しいと笑う私をいつも満足そうに見つめていた事を今、ようやく思い出した。 そうだ。心さんはとても狡くて、そしてとても優しい人だった。 そんな心さんを私は好きになったんだ。 「ごめんねっ…」 私から好きになったのに。 何度あしらわれても諦めきれなくて、しつこく心さんに思いを伝え続けていたのに。 やっと心さんも私のことを好きになってくれたのに。 何もかも忘れてしまって、ごめんなさい。 きっと何度謝っても、謝り切れない。 そして同時に、 「…ありがとう…っ」 この言葉だって、伝え切れない。 貴方の前では、どんな言葉も陳腐になってしまう。 好き、も。愛してる、も。 口にすればするほど、歯痒くてどうしようもなくなってしまうの。 結局ただ涙を流すことしかできない私に、心さんは薄っすらと涙の膜が張った瞳を愛おしげに細め、 「純恋の“明日”が来ることを、心から願ってる」 そして、そう囁いた。 自分を忘れてしまう私の明日を、心から願っている貴方のために。 私は今日も、生きていく。 fin.
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