屍へ、はなむけを囁く

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「よう、起きたか」 開いた扉から姿を現したのは長身の男の人。 上下黒のスウェットに身を包み、長めの黒髪はセットは愚か寝癖さえも直されていなくボサボサだ。そして極めつけは無精ヒゲ。 どこからどう見ても…怪しい。 そして、勿論この人の事も私は全く見覚えがない。 「体調は?どんな?」 押し黙る私を余所に、その人はそう問いかけながら一歩此方へと歩みを寄せた。 「っ、」 反射的にベッドの上でズザっと後退ってはシーツを手繰り寄せ、自分を守るように胸元でギュっと抱きしめた。 そんな私を見て動きを止めたその人は何故か「ああ」と納得したような声を出し、ゆっくりとベッドの側まで近づくと私に視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。 そして目元まで伸びた重たそうな前髪を緩慢な動作で後ろに流すように掻き上げ、「ん」とヒゲの生えた顎を突き出すようにしてきた… …けれど、全く以って意味が分からない。 「…はい?」 シンとした空間に困惑を()ぜた私の声が響く。
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