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そんな私を数秒見つめた後、その人はフっと破顔した。その表情が憂いを帯びているように映ったのは、気のせいなのだろうか。
切なげなその表情に不覚にも目を奪われた。
心臓が収縮し、呼吸が上手く出来なくなる。
この感覚を私はよく知っている気がした。
ゆっくり伸びてくる大きな手に、不思議と恐怖心はなかった。
少し骨ばった、けれど長くて綺麗な指が頬を滑り、落ちてきていた私の横髪を耳に掛ける。その動作に、不思議と嫌悪は感じなかった。
寧ろ、当たり前のようにそれを受け入れている私がいた。
「飯できてるぞ」
低く放たれた声にハっとした時にはもう既にその人は立ち上がり、ドアの方へと向かっていた。
慌ててベッドから降りて、その背中を追いかけた。
「あのっ」
キッチンに立つその人へと声を投げかければ「ん?」と反応を示す。
振り返ったその顔を見つめながら、
「…貴方、誰なんですか?」
私は問うたそれは、耳を削ぎたくなるほどに軽薄な響きだっただろう。
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