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「……」
その人は暫く私をジっと見つめたかと思えば、何も言わずに前へと向き直った。
…え?…無視?
まさかここで無視されるとは思っていなかっただけに多少面食らったが、食い下がるわけにはいかない。
「あの、質問に答えて下さい」
「……」
「貴方は一体何者で、此処はどこなんですか?」
ダイニングテーブルにお皿を並べるその人の背中に言葉を投げかけるも、一向に返事が返ってこない。
さすがに苛立ちを覚えて「ちょっと」と張り上げた私の声に「あのなぁ」と少し鬱陶しそうなその人の声が被さった。
「俺が誰だとか此処がどこだとか、そんなに重要な事か?」
「…は?」
その人は身体ごと振り返っては心底面倒臭そうにそう言い放つ。けれど、私が問いかけたその二つはどう考えても私にとっては重要な事だ。
…この人、何言ってんの…?
あからさまに怪訝な眼差しを送る私をチラっと一瞥しては小さな溜め息を吐き出すと共に再び開口した。
「お前は今日もこうして無事に目を覚まして、“今日”を生きられる。その事実だけで十分だろ」
「……」
なんでいきなりそんなにケースの大きい話しになるのだと反論したくなったけれど、余りにも真剣な面持ちでそう言われては口を噤むしかなかった。
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