屍へ、はなむけを囁く

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数分後、その人の手に乗せられた小さなお皿にはケーキが盛り付けらえていた。 「…ミルクレープだ…」 ポロリと零した私の呟きに「好きだろ?」と得意げな瞳を向けてくる。 それは紛れもなく私が一番好きなケーキだ。 でも、どうしてこの人がそれを知っているのか。それがどこを探しても見当たらない。 「あと、これも」 そう言う声と共に、コト…とテーブルに置かれた深い赤色のマグカップ。その中で湯気を立てながらユラユラと揺れるその黒い液体を見て、慌てて顔を上げた。 「あの、私…コーヒー飲めないんです」 あの独特の匂いと舌を刺激する苦みがどうも苦手で、今まで飲めた試しなど一度もないのだ。 …せっかく淹れてくれたのに。 申し訳ないという気持ちをそのまま表したかのように眉を下げる私とは対照的にその人は口角を少し上げて微笑んだ。 「心配すんな」 「…へ?」 間抜けな声を出す私を余所にその人は小さな容器に入ったミルクをたっぷりと流し入れ、小さなスプーンでぐるぐると掻き混ぜた。 「これで飲めるから」 コトっと音を立てて再び目の前に置かれたそれをジっと見下ろす。 確かにカフェオレのような色味になったけれど、どう考えてもこれではまだ苦さは紛れていないはずだ。 「騙されたと思って飲んでみろよ」 黙りこくってしまった私の頭上から、再び低い声が落ちてくる。
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