《1》

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《1》

 眠い。来ない。  起きたばかりの私の脳は普段以上に短絡的で、単語の列挙が限界だ。  自転車のサドルにまたがったまま、制服のポケットに入れていたスマートフォンを取り出してホーム画面を開く。 7月10日 AM8:14  待ち合わせの時間は既に4分過ぎている。  明け方まで降っていた雨でアスファルトの黒は色が強くなり艶めいていた。太陽は分厚い雲の向こうにすっぽりと隠れているようで、今はただ、ジメジメとした空気が全身を覆い不快だった。  まだ来ない。  右に流れて欲しいのに、どうしたって言うことを聞かない前髪を、手で無理やり押さえつける。ヘアピンを求めて鞄の外ポケットを探ったけれど、そこにはないようだった。  ここでやっと、遠くから走って来る同じ制服姿の少女の姿が見えてきた。 「亜希ごめん、遅くなった」
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