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息を切らして、由衣が私の目の前で立ち止まる。
「あと1分遅ければ先に行こうと思った。ってか、なんで今日自転車じゃないの?」
「何でだっけ? 何か朝うちの自転車置き場になかったんだよね」
そう言いながら自分の鞄を背中に背負い、由衣はもう私に運んでもらう体制を整えている。
「え、それ、盗まれたんじゃないの?」
「いやまさか。あ、昨日一緒に帰ってないよね?私の帰りがけ、ちょっと雨降ってたんだよ。だから学校に置いて帰った」
由衣は制服のスカートから伸びるまっすぐな足を惜しげもなく晒して、後ろのキャリアにまたがる。
確かに昨日は、由衣は委員会があったから私は先に帰っていた。それにしても。
「ちょ、それ忘れる?」
「まぁまぁ。亜希~」
そのまま細くて白い腕を、するりと私の腰に絡めると、そのまま必要以上に私に体を寄せてきた。
「危ないから、ちゃんと座って」
そう言って振り向くと、思ったよりも目の前に由衣の顔があった。
毛穴の存在が疑わしくなるようなキメ細かい肌に、ぱっちり二重の目。その瞳は、いつにも増してたくさん水分に覆われていて、瞬きをすれば今にも涙が溢れてきそうだった。
どうして美人って言うのは、こうも揃ってうるんだ瞳をしているのだろう。
「はぁい」
なんとも間の抜けた返事を背中に受けながら思う。
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