《1》

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 2人とも 自転車だったらまだ余裕だけど、後ろに由衣を乗せて進むとなるとそれなりに急がなくてはいけない。 「はい、じゃあ出発」  自分でそう言ったものの、くぁ、と欠伸が出てペダルに掛けた足を一旦地面に戻す。 「そっちこそ、テスト勉強で寝不足ですか?」  後ろから、茶化すような由衣の声がする。 「違う。ゲーム。こないだ話したやつ」 「スマホの?」 「そう」  今度こそ足に力を入れて、グッと押し出す。いつだって自転車は、最初の一漕ぎに1番力が必要だ。 「でももう諦めた。今日からイベント限定の激レアのキャラが出たのに、テスト期間とまる被り」 「なんで?やればいいじゃん」 「昨日、夜中までやってたのが母親にバレて、今日から3日間スマホ8時までしか使えなくなった」  私だって、高2の夏休み前の中間テストがそれなりに大切だってことくらい言われなくたってわかっている。それでもいい年してスマホの没収なんて恥ずかしすぎて、愚痴れる相手は由衣くらいのものだった。
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