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「ほら、亜希。急いで」
あっという間に私の前に回り込んで振り向いた由衣は、やけに楽しそうな笑顔をこちらに向けている。
「無理」
「無理じゃない」
体1つの由衣に、鉄の塊を押しながら進む私。状況は圧倒的に不利だ。
「置いてくよー」
そう言う由衣は、もう私から10メートルは離れたところに立っていた。
そもそも由衣が遅刻したのがいけないんでしょ、と口に出そうとしたものの、いくら言ったところで 今の由衣には聞こえない。
いや、仮に聞こえる距離にいたとしても、聞く耳を持ってはくれないだろう。私はそっと、開いた口を閉じる。
雲に隠れていた太陽がいつの間にか顔を出していた。
そろそろ、梅雨が明ける。
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