あなたはそこにいますか

11/11
前へ
/11ページ
次へ
 土星を何度か周回し、目的地である第八衛星ヤペタスを発見する。ヤペタスは地球の月とあまりにも似通っており、はじめ月そのものと勘違いしたほどだった。カルピスが言うには、主成分は氷からなっているらしい。だがカルピスの目的はヤペタスそのものではなかった。 「ハロー、ビッグブラザー」  真っ黒で何もない。大きさはきっちり1:4:9の長方形をしている。カルピスはそれをビッグブラザーとも、スターゲイトとも呼んだ。 「まだわからない? 2001年宇宙の旅だよ。『TMA・1』ってのはあれのこと」  俺たちはスターゲイトに近づいた。そっとその表面に触れるも、突起も傷も全くない。カルピスは俺の目を見ると、インベントリからゲームボーイを取り出す。そして電源を入れると、スターゲイトは光を解き放った。  スターゲイトの光のトンネルを抜け、気づくと俺は薄暗い部屋のベッドで目を覚ます。体を起こすとそこは幼い頃の俺の部屋で、ウィートリ―とクラップトラックのフィギュアがPCモニターの前に並んでいた。  ふと俺は抱えるほどのプレゼントボックスに気づく。包みを開けると不朽の名作『大乱闘スマッシュブラザース』だった。  本体にソフトをセットし、電源を入れる。キャラクター選択画面へと進めた時、俺はあることに気づいた。対戦相手として、強制的にプレイヤー2が選択されており、CP戦ができなくなっている。一人で二人分動かしたって面白くない。俺はゲーム機の電源を消すと、本体をインベントリにしまい込んで扉を出た。 「待ってたぞ」  そこにはカルピスが居た。カルピスは二人掛けのソファーに座り、コントローラーの一つを俺に差し出す。俺はコントローラを受け取り、カルピスの隣に座った。 「最後の対戦相手はカルピスか……」 「そう。最後に勝つのは、俺か、お前かのどちらかだけだ」  カルピスが笑った。つられて俺も笑った。  俺はリンクを選択する。カルピスはマリオを選択した。ルールはストック制、オールアイテム、オールランダムフィールド。  先に三機落としたほうが勝利だ。  聞きなれたカウントダウンが始まり、ゲームが始まる。  俺は今までで一番必死になってボタンを叩き回した。  それは、今までで一番最高に楽しい時間だった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加