あなたはそこにいますか

9/11
前へ
/11ページ
次へ
 軌道エレベーターで宇宙へと上がる。紫色の薔薇のような巨大な構造物は一定の速度で回転し、人工的に重力をもたらしていた。最外縁部は宇宙港となっており、デューカリオン、エンタープライズ号に加えて宇宙戦艦ヤマトまで停泊している。宇宙港と軌道エレベーターすべてを総称して、スターローズと呼ばれていた。  俺たちは空いた埠頭を適当に見繕い、インベントリから禍々しい緑濃色の戦艦を出す。船首には髑髏のレリーフが彫り込まれ、艦後部から黒い煙があふれ出ていた。 「こういうの好きだよな」  カルピスが言った。 「まぁな」  エアロックを抜け、艦内部へと入る。艦橋へと移動し操舵輪を握った。 「アルカディア号、発進!」  船体が大きく振動し、後ろへと転倒しそうになる。スターローズが遠ざかっていく。 「で、目的地は?」  カルピスは所有者でないにも関わらず船長席に腰かけ、足を組んでいた。 「『TMA・1』って画面に出てただろ?」 「だから、どこだよぉ……」  肩越しに振り返る。ヒントを見て宇宙へと言ったのはカルピスだった。 「なんとなく見えて来たけどね。まぁ、とりあえず宇宙ってわけ」 「んで、宇宙のどこよ?」  カルピスは腕を組みしばらく黙り込むと答えた。 「記憶が正しければ――土星の第八衛星ヤペタス!」  最短ルートを検索する。地球を半周したのち月、火星、木星でスイングバイして向かうのが最短ルートだった。 「で、元ネタ分かったんだろ? 教えろって」 「教えぬ」  カルピスはニヤニヤして言った。 「有名だから名前くらいは知っていると思う。とりあえず土星へ行こう」  俺はため息をつくと、操舵輪を掴んだ。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加