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私を止めて
電話をかけたい。
でもかけられない。
つい先日、電話口で『いい加減にしてくれ』と怒られて以来、ずっと堪えている。
孤独だ。
たった独りで部屋にいる時は、決まって強く感じる。
気紛れにネットサーフィンをしても、SNSに興じようとしても無駄だった。
違う、そうじゃないと、心が叫ぶ。
熱のこもったスマートフォンが、白々しいぬくもりを伝えてくる。
欲しいのはこんなものじゃないと、やはり心が泣き叫ぶ。
気付けば、慣れた手つきで電話番号を呼び出していた。
そして震える指先が通話アイコンに触れる。
ーープルルルッ。
ーーはい、江戸前ジョニーでぇす!
ーーあ、すいません。特上寿司を10人前お願いしたいんですけど。
ーーそれだと、ちょっとお時間かかりますね。お昼過ぎちゃいそうですけどぉ。
ーー大丈夫です。待てますので。住所は……。
ーーはい、畏まりました。では出来次第お届けしますねー。
ーーブツン。
やってしまった。
また縁もゆかりも無い人宛に送りつけてしまった。
いきなり寿司を着払いで送りつけてしまったのだ。
「誰か、私を止めて……」
そんな独り言とは裏腹に、私の掌は汗でじっとりと濡れる。
罪の意識に苛まれてか、あるいは甘美なる手触りに絆されたのか、指先の震えがしばらく止まなかった。
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