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「何やってんの」
振り返ると市原一がいた。
同い年の幼なじみの男だ。制服を着崩して、ワックスで髪をセットしていて、それなりの高校生に見えて腹が立った。
小学校までは一緒に遊んでいたが、中学校に上がってからは疎遠になっていた。同じ高校に進学したものの、学校ではクラスも違うから話しかけることもほとんどない。
遠目で見ている限り、市原は学校にすでに馴染んでいるようだった。ずっと前から高校に通っている雰囲気すらある。市原を見ていると、なんで私はうまく出来ないのだろう、と自己嫌悪に陥るのだった。
「別に」
高校生活の様子を家族や近所の人に訊かれると、後ろめたさで作り笑いをしてしまう。由貴は市原に似たような質問をされるのでは、と警戒した。すんなり学校生活になじんでいる市原に高校生活のことを訊かれたくなかった。
小学生のころはこの公園でかけっこをしたり、砂場で遊んだのに、あのころの無邪気さはどこかに行ってしまったらしい。
市原は由貴のとなりのブランコに座った。
「なんでそんなつっけんどんなのさ」
「……別に」
市原は瞬きを三度した。
本当はもっと素直に、自然にしていればいいのかもしれない。それでも、素直に自然にする方法がどこかに飛んでいってわからなくなってしまった。
口を尖らせ、俯いて、ふつうにする難しさに眉間にしわを寄せてしまう。
「私、氷みたいに冷たいんだって」
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