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ぽろりと言葉がこぼれてしまったのは、思っていたより追い詰められていたのかもしれない。もしくは、普段市原と言葉を交わさないことに油断したのかもしれない。
「へぇ? 初耳~」
市原の気の抜けた声に苛立った。
こっちは真剣に言ったのに。
「俺はそんなふうに思ったことないけど」
由貴はとなりを盗み見た。
「まあ、真っすぐで融通が利かないとは思うけど、それって冷たいのと違うじゃん?」
「……けなしてんの?」
思わず半目で睨むと、市原は軽やかに笑い声を上げた。
その時、雪が舞い降りてきた。
ひらひらと花びらのように薄い雪だった。
「やっべ、今日コート着てないのに」
道理で寒いわけだ、と市原は背を丸めて腕を組んだ。
由貴は空を見上げ、優雅に降りる雪を眺めた。
確かに寒い。由貴もコートを着ていない。
そんな人の都合にはお構いなく、雪は音もなく、いくつもいくつも降りてくる。
北国では、四月の半ばになっても雪が降ることがままある。慣れた光景なのに、つい手のひらを出してしまう。ひとひら手のひらに舞い降りて、雪はあっという間に解けていった。
「ほら」
「ほらって何よ」
「あったかいじゃん」
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