最終章 付きまとう影

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 小箱が笑顔になり、和寿の頬も緩む。 「その言葉を聞きたかった」 「ああ。いくらでも言ってやる。ずっと、ここにいろ。俺が護ってやる」 「ううん。それはいいの。自分の身は自分で護るから」  喜んでくれるかと思ったのに、断られて和寿は拍子抜け。 「俺のこと、そんなに信用できないか?」 「違うよ。和寿さんを危険な目に遭わせたくないだけ」  和寿は、小箱の頭にポンッと手を乗せた。 「バカだな。そう思っているのは、俺の方だ……」 「和寿さんは危険なことをしないで。和寿さんがいないと私は生きていけないから。和寿さんになにかあったら、死んだ方がマシだから」 「え?」  突然の熱烈な想いの告白。 (いや、突然じゃない。小箱はずっと変わっていない……)  それを受け入れることのできない和寿が、目にも耳にも入れないようにしてきただけ。 「小箱……。俺は死なない。安心しろ」 「ずっと、近くにいてくれる?」  愛の告白だとしたら、受け入れることを和寿は良しとしない。  本人は苦しいかもしれないが、少し大人の和寿から見ると青春の1ページとして煌めいている。  それがとても眩しくて、和寿はそっと目を閉じる。  『1ページ』は、1ページ分しかないということ。  いつかページはめくられて、次のページに新しい世界が広がっているだろう。  それが和寿にはわかっている。  小箱はいずれ広い世界に出て行くのだ。  大切に想うからこそ、受け入れない。  しかし、不安に駆られる小箱を突き放すようなこともできない。 「ああ、約束する。文字通り、近くにいるって意味として」  小箱は大きな笑顔になった。
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