最終章 付きまとう影

41/42
121人が本棚に入れています
本棚に追加
/177ページ
 魅囲篤輝は、街を見まわして語った。 「いやあ、それにしても、都会と海と山が凝縮されたいいところだ」 (とても気に入っているようだが、本気でここに住むつもりか?)  一番恐れているのが、ストーカーとなったシリアルキラーが前の知り合いを通して小箱の居場所を知ってしまうこと。  その繋がりをこの男が運んできてしまうのではないかと懸念してしまう。 「すみません。そろそろ買い物をしたいので……」 「ああ、引き留めてしまってすみませんでした。今度、ぜひゆっくりとお話したいですね。鎌倉のおすすめ場所などを教えてください」  最後に握手を求めてきたので、和寿は魅囲篤輝の右手を握った。 (冷たい!)  握った右手が氷のように冷たくて、間近でみた彼の目は荒涼とし、笑っていない。  魅囲篤輝が雑踏の中へ消えていくと、和寿はスーパーマーケットに入った。  よく見かける野菜のほかに、鎌倉野菜が豊富に並んでいる。  鎌倉野菜は、どれもカラフルで、なじみのない野菜はお勧め料理がポップに書かれている。  それらを見ている和寿の頭の中は、料理どころか魅囲篤輝のことで一杯となった。 (あの先生の事、小箱はどう思っているんだろ?)  小箱の知らないところで情報を聞き出したことが後ろめたくて、前にあったことは話していなかった。  彼が鎌倉に引っ越してくれば、狭い地域なので必ず再会するだろう。 (引っ越しが気まぐれによる軽い思い付きで、気が変わってとりやめてくれればいいのだが……)  そう、都合よくいかないとわかっていても願ってしまう。
/177ページ

最初のコメントを投稿しよう!