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「この花壇ね。きっと、サクラソウが犯人を教えてくれる」
小箱は、荒れた花壇を隅々まで観察しながら奈爪に聞いた。
「あなたはどこから彼女を見たの?」
「昇降口から出たところよ」
少し遠くを指す。
「その時の花壇の状態はどうだった?」
「あそこからは見えないから、知らないわ」
「花壇は見ていないのね?」
「ええ。見ていない。でも、彼女が手についた泥を、洗って落としていたのはしっかり見たんだから」
次に、苫米に聞いた。
「あなたが最後にここを通ったことは確か?」
「ええ。私が最後だった。他に誰もいなかったもの」
「あなたが昨日見たときは、まだこんな状態じゃなかったのね?」
「ええ。こうじゃなかったわね。注意して見たわけじゃないけど、この状態だったら気づくもの。いつも、綺麗に咲いていると思っていたから」
「この状態だと気づいたのは、いつ、誰が?」
それには、罰が悪そうに苫米が答える。
「気づいたのは、私。今朝、朝練に来たときに目に入って」
奈爪が勝ち誇ったように言った。
「ほらね。第一発見者を装っているけど、わざと騒いでいたんじゃないの? あ、もしかしたら、今朝登校してからやったってことも、ありうるかもね」
小箱が即座に否定した。
「それはないでしょう」
「どうして?」
小箱は、屈んで引っこ抜かれたサクラソウを見た。
「だって、根っこが乾いているもの。花びらも萎れている。数時間が経っている証拠だわ」
和寿も目視で確認する。
「確かに、どれも乾いているな。掘り返された土の表面も白くなっている」
「つまり、昨日のうちにこうなったってことよ」
奈爪は、改めて主張した。
「だから、最後にここを通った人が怪しいってことでしょ。そして、なぜか同じ人が第一発見者となった。偶然にしては、出来過ぎな話だと思わない?」
「…………」
苫米は、黙ってしまった。
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