プロローグ サクラソウは語った

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「ちょっとだけ触っていい?」 「いやよ」  小箱は、チッチッと人差し指を立てて横に揺らした。三人が思わずその指先に注目する。 「こんなこと、知っている?」 「何よ?」 「サクラソウって、かぶれるのよ」 「かぶれる?」 「そう。葉や茎の綿毛にアレルギー物質があってね、素手でさわると皮膚炎を起こしてしまう。症状は、痒み、赤み、水泡など。それらが触ってから数時間後に出てくる」 「そ、それがどうしたっていうの?」 「あなた、苫米さんが手を洗って泥を落としていたって言っていたわよね」 「言ったわよ」 「つまり、素手でサクラソウを引っこ抜いたってこと。なのに、苫米さんの手には、かぶれの症状が出ていない」 「あ、それで……」  苫米は、手を触られた理由がわかった。 「念のため、両手を見せてもらったけど、なんの問題もなかった。犯人なら、今頃、痒い、痒い、と苦しんでいるはず。そこまでいかなくても、赤くなっているとかね」 「痒みなんて、全くないわ」  苫米は、両手を目の前で広げて見せた。水泡もなく、赤みも帯びていない。 「ところどころ擦り傷や切り傷がある。これだけ傷があれば、サクラソウのアレルギー反応が出るはず。でも、全く出ていない。つまり。触っていない確率はとても高い」  奈爪が強気で聞いた。 「それで、何が言いたいの?」 「その包帯は、見せたくないものを隠しているんじゃないの? 奈爪さんも、その包帯を取って、手を見せてよ」 「いやよ!」 「アレルギー反応が出ているなら、きちんと薬を塗らないと治らないわよ」 「平気よ」  頑なに包帯を取らない。  和寿も、このままでは埒が明かないので奈爪を説得した。 「奈爪さん、その包帯を外して見せてみなさい」 「先生が生徒を疑うの?」 「先に苫米さんを疑ったのは君だぞ」 「ク……」  悔しそうに歯をかみしめた。
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