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私以外の人間
「~~♪ ふん、ふーん♪」
洞窟のある一室で、可憐な少女が鼻歌を歌いながら鍋をかき混ぜる。どこか懐かしげな音楽に合わせ、ラベンダー色の髪が楽しそうに揺れる。その隣ではスラリとした金髪の女性が手際よく別の料理の味付けをしていた。
「……サナさん、その歌は何なの? 呪い?」
「むむ、失礼なの。これは神遷の月の歌なの。この歌はお祈りの意味も込められているから、きっと料理も美味しくなってくれるの」
「神遷……ああ、十の月のことね。それにしても随分と急だったわね。滅多に食事なんてしないアンタが人間界の料理を教えて欲しいだなんて」
そうこうしている間に、テーブルには野菜がたっぷり入ったスープに、新鮮な卵を使ったふわふわオムレツ、牛肉のトマト煮込みなどの料理が続々並んでいく。パンは中央に置かれており、各自で取るスタイルだ。
「今日は歓迎会なの。新しく来たマイリアという子は色々な街を見てきたから、料理の知識も多いはずなの」
「へぇ。なら卵も余ってるし、デザートにパンケーキでも焼こうかしら?」
「ぱんけーき……?」
「言っとくけど新種の薬草じゃないわよ。甘くてふわふわでとっても美味しいのよ! 人間界に行く時ははよく食べているわ」
「なるほどなの。フウナ、是非作って欲しいの」
「ん、りょーかい」
サナの洞窟で暮らす能力者の1人、フウナ。
彼女は、人間界からやって来たマイリアとの邂逅を実に楽しみにしていた。
「ほら早くー!」
「わっ、とと……」
「おっと、堪忍なぁマイリアはん」
「ううん。それにしても2人共、何だか楽しそうだね」
もう離してもいいよと言うと、リンノとカエノは私の前で手を繋ぎ、うきうきと後ろ歩きを始めた。動きに合わせてピョコピョコと揺れる耳に癒されながら付いていく。
「当たり前や! うまいもん食うのは最高の至福なんや!」
「それにね! 今日はフウナが人間界の料理を作るって言っててね、すっっっごく楽しみなんだ!」
「それは楽しみだね」
ねー、なー、と2人は顔を合わせる。サナ達以外にも住人がいると聞いていたので、きっとその人のことだろう。
思えば私は朝から何も食べていなかった。それを意識した途端、お腹がキュルキュルと音を立てる。咄嗟にお腹を隠したが、2人は気づいていないようなので杞憂だった。
ここ、と示された扉を開いて中に入ると、香ばしい匂いが鼻孔を掠めた。家主であるサナともう1人の金髪の女性が、各席のカラトリーの準備で動いている。
色とりどりな料理がテーブルを鮮やかに飾る。部屋の内装は客間と似ているが、どこか雰囲気が明るいのは人が集まるところだからだろうか。
「うわー、いい匂いする!」
食べ物にテンションが上がったリンノに勢いよく引っ張られた。
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