私以外の人間

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「どうして泣いてるの? 良かったらお姉さんに教えて欲しいな」 「っく……お兄ちゃんと、はぐれたの」 「そうかそうか、よく言えたね。えらいわ。じゃあお姉さんと一緒に探そうか。特徴教えてくれる?」 「うん。えっとね──」  背は高くなくてー、髪はミカと同じ色でー、優しくてー、など髪色以外は参考にならなさそうな情報を、フウナはうんうんと頷きながら聞いていた。意外にも面倒見がいいタイプらしい。 「ごめんマイリア、すぐ戻るから近くで待ってもらえるかしら?」 「私も一緒に探すよ」 「いいのよ。ちょっと休憩してて」  そう言って、フウナは少女と手を繋いで歩いていく。近くに長椅子を見付けたので座って待つことにした。背の部分にもたれ掛かると、特有の冷たさが背中を程よい温度にしていく。 (ちょっと、疲れたかな)  屋台の匂い。ふわりと頬を撫でるそよ風。道行く人たちの笑い声。ずらりと並ぶお店の看板。自分の世界は止まっているにも関わらず、周りの世界は動き続けている。どこもかしこも活気に満ちていて、そういうところは人間界と似ている。  そういえばアレン兄さんは、私の祖母と面識があったらしい。よく近所に咲く花や風景の絵を頼まれていて、その繋がりで私の面倒を頼まれたのだとか。それに彼は今日のように天気が良い日は、よく私を連れて外でスケッチしていた。果たして元気でやっているのやら。 「……あれ」  長椅子の下辺りに白い布が落ちていることに気付く。誰かのハンカチ、なのだろうか。  おそらく良い材質であろうその布を拾い上げると、驚いたことに小さな楽器が包まれていた。シンプルなデザインの横笛だが、繊細な模様が彫られておりセンスがある。きっと値段も相当のものだろう。こんな街中で落とすのはかなり不用心ではあるが。 「誰のだろう──」 「すいませーん! それ自分のデース!」  人の形をした影がひとつ、目の前に止まった。くりっとした大きな赤い目に真っ白なボブヘアーという、どこか中性的な印象を受けるその子供は、肩で息をしながら早口に捲し立てた。 「いやぁ見つかってホント助かりましたヨ、何せその楽器は何代も続く使い手たちが魔力を流し続けた唯一無二のものですかラ! これマジで聴いたことないくらい良い音するデス! もう落とした時は呪われるんじゃないかってくらい寒気がしテ……ゲホッ」  案の定というべきか、やはりむせた。走った後にそんなにしゃべるからだ。 「だ、大丈夫ですか? というかこれ、早く受け取って貰わないと困るんですが」 「忘れてまシタ! ありがとうデス! あ、この後奥のステージで演奏するので、良かったら聞きに来てくださイ!」  白髪の子供は楽器を受け取ると、人の波を縫って早足に去っていく。  まるで嵐が過ぎ去ったようだった。何故か片言で話していたのが気になったが、あのまま楽器を持っている理由も無かったので良しとしよう。魔力がどうのこうのという話は聞かなかったことにする。   
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