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何てことのない、普通の日常
「ねえみんな! リンの本どこに行った!? 探しても探しても1冊だけ見当たらなああぁい!」
2つに分かれた尻尾を揺らしながら、部屋中に響き渡る声で叫び散らすのは猫又のリンノ。
獣でありながらヒトの姿をとる彼女は、誰の趣味なのか、黄色い刺繍が施された巫女服を身に纏っている。
「ああ、その本なら今俺が読んでるぞ」
そんなリンノを横目に、冷静にそう返すのはナユリス。視線は読書中の本に向けられている。
自分を“俺”と呼び、ブルーグレーの髪を後ろでひとつに纏めたその姿が、絶妙に彼女の雰囲気を中性的に見せていた。
「ナーユーリースー! また勝手に持ち出しただろ! せめてひと声かけろ!」
「一応言ったぞ? 耳が遠くて聞こえなかっただけなんじゃないのか? お?」
「ムキー!!」
リンノが本を奪い返そうとするが届かない。この2人はいつも似たような喧嘩を繰り広げている。リンノが突っかかり、ナユリスが煽る。そして周りはリンノを宥める。
「あー、リンノ? 少しは落ち着き?」
そんな2人の間に入るのは、リンノの幼なじみであるカエノの役割だ。
彼女はリンノと同じく獣の一種で、色違いの青い刺繍の巫女服を着ている。なお、彼女はツッコミ気質である。
「落ち着いていられるか! アイツ1回ぶちのめす!! カエノ行くよ!」
「いや待ちぃ、ワイを巻き込むな!」
「うーん!? リン達は2人でセットだよっ!!」
「……もうイヤやこいつ、助けてサナ」
サナと呼ばれた少女は、直前まで楽しんでいた紅茶のカップをコトリと置き、ゆっくりと瞼を開ける。
サナは、異界有数の魔法使いの一族で、寿命がとても長い。そのため、1つひとつの所作が洗練されていて品がある。
ちなみにリンノとカエノに巫女服を着せているのは彼女だ。
「分かったの。“氷の花”」
ピッキーン!
リンノが音を立てて凍る。しかし誰も驚かない。なぜならこの様子は日常茶飯事だからだ。
ここに住む人達は、魔法使いであるサナを除いて全員が『能力者』と呼ばれるものである。
能力の種類は能力者によって千差万別。代表的なものは風、水、火、地などの自然系や光、闇などだ。
他には妖怪や獣のように、能力とは違う本来の姿の力を使う者もいるがそれは極少数だ。そのため、そのような者達は稀有な存在として扱われる。
世界は人間の住む世界、そして能力者の住む世界に分かれている。特に後者は、神話時代に後天的に作られたものなので、人間界では『異界』と呼ばれている。
ただ、神話時代ではひとつの世界だったので、その影響で人間界でも稀に能力者が生まれることがある。
普通の人間は入ることができないが、能力者なら誰でも入ることができる異界。そこには人間界からの能力者が迷い込むことがあるのだ。
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