何てことのない、普通の日常

2/9
前へ
/17ページ
次へ
「とりあえずリンノは無視だ。カエノ、フウナはどこに行ったんだ?」 「え? ……あー、たしか今日はの世界に遊びに行く言うてたな」  フウナとは、同じくこの洞窟の住人だ。現実世界出身で、そちらに遊びに行くことが多い。  黙っていれば美少女な彼女だが、何かと残念な不憫系女子である。 「──あっ」  リンノに掛けられた魔法が溶け、彼女の意識が戻る。彼女は周りをキョロキョロ見回したかと思うと、ハッとして今度はサナに飛びかかる。 「サ~ナ~~! 毎度毎度リンを氷漬けにしやがって!」  リンノは厚さが10cmもある本を(ふところ)から取り出してサナに飛びかかる。そんなに小さな体のどこに隠し持っていたのだろうか。 「ハードカバー攻撃!」  バコッ! と大きな音が鳴る。どうやらハードカバー攻撃がサナに命中したようで、彼女は頭をさすっている。 「……リンノ? 覚悟はいいのね?」  サナが明らかに真っ黒い笑顔になり、周囲の温度が少し下がる。 「“氷の花(クリスタル・ブロッサム)”!」  リンノに向かって魔法を発動する。尚、2度目である。しかしピキーンという音はしなかった。 「……あれ? おかしいの」 「リンノどこ行った?」 「──フンッ、ここだよ! このへっぽこ魔女!」  カエノの足元から声がする。猫又(元の姿)の姿になって魔法を回避したのだ。 「ちょっと、ズルいの! さらに猫になるのはルール違反なの!」 「はぁ? 猫又なんだから当たり前でしょ! バカ魔女!」 「あのー、リンノ? わいら一応サナの使い魔なんすけどー」 「ならばこれでも食らうの、“紅の光(アンガー)”!」 「まさかのスルー」  サナ、本日3度目の魔法。  太陽よりも眩しい閃光に、リンノは反射的に目を瞑る。 「ほい、リンノ捕獲。さあいい加減おとなしくしろ」 「ギャーー! 離せーー!」 「リンノはさっきからうるさいの。マイリアが起きるの」  じたばたと暴れるリンノをカエノとサナで抑える。ちなみに、ナユリスは我関せずと読書を再開していた。 「ただいまー……って何この状況」 「おうフウナ、いつものだから安心しろ。俺は傍観に徹することにした」 「……うん、まあ、たしかにいつものことね。ちなみに原因はまたナユリ」 「何か?」 「ア、イエ、ナンデモナイデス。……そうだわ、あの2人は明日か明後日に帰って来るらしいわ」 「そうか、分かった」  そのタイミングで、1人の少女が眠りから目を覚ます。  彼女は数回ほど目を瞬かせ、頭をブンと振って意識を覚醒させる。彼女の短い黒髪がさらりと揺れる。  そんな様子にナユリスが気付き、彼女に声を掛ける。 「お、マイリア起きたのか。おはよう」 「──おはよう、みんな」  彼女の名はマイリア。彼女は後に、伝説の能力者『召喚者(サモナー)』として、歴史に名を残すことになる。  これは、長い長い前日譚。  ある能力者達による、何てことのない、普通の日常だ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加