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「とりあえずリンノは無視だ。カエノ、フウナはどこに行ったんだ?」
「え? ……あー、たしか今日はアッチの世界に遊びに行く言うてたな」
フウナとは、同じくこの洞窟の住人だ。現実世界出身で、そちらに遊びに行くことが多い。
黙っていれば美少女な彼女だが、何かと残念な不憫系女子である。
「──あっ」
リンノに掛けられた魔法が溶け、彼女の意識が戻る。彼女は周りをキョロキョロ見回したかと思うと、ハッとして今度はサナに飛びかかる。
「サ~ナ~~! 毎度毎度リンを氷漬けにしやがって!」
リンノは厚さが10cmもある本を懐から取り出してサナに飛びかかる。そんなに小さな体のどこに隠し持っていたのだろうか。
「ハードカバー攻撃!」
バコッ! と大きな音が鳴る。どうやらハードカバー攻撃がサナに命中したようで、彼女は頭をさすっている。
「……リンノ? 覚悟はいいのね?」
サナが明らかに真っ黒い笑顔になり、周囲の温度が少し下がる。
「“氷の花”!」
リンノに向かって魔法を発動する。尚、2度目である。しかしピキーンという音はしなかった。
「……あれ? おかしいの」
「リンノどこ行った?」
「──フンッ、ここだよ! このへっぽこ魔女!」
カエノの足元から声がする。猫又の姿になって魔法を回避したのだ。
「ちょっと、ズルいの! さらに猫になるのはルール違反なの!」
「はぁ? 猫又なんだから当たり前でしょ! バカ魔女!」
「あのー、リンノ? わいら一応サナの使い魔なんすけどー」
「ならばこれでも食らうの、“紅の光”!」
「まさかのスルー」
サナ、本日3度目の魔法。
太陽よりも眩しい閃光に、リンノは反射的に目を瞑る。
「ほい、リンノ捕獲。さあいい加減おとなしくしろ」
「ギャーー! 離せーー!」
「リンノはさっきからうるさいの。マイリアが起きるの」
じたばたと暴れるリンノをカエノとサナで抑える。ちなみに、ナユリスは我関せずと読書を再開していた。
「ただいまー……って何この状況」
「おうフウナ、いつものだから安心しろ。俺は傍観に徹することにした」
「……うん、まあ、たしかにいつものことね。ちなみに原因はまたナユリ」
「何か?」
「ア、イエ、ナンデモナイデス。……そうだわ、あの2人は明日か明後日に帰って来るらしいわ」
「そうか、分かった」
そのタイミングで、1人の少女が眠りから目を覚ます。
彼女は数回ほど目を瞬かせ、頭をブンと振って意識を覚醒させる。彼女の短い黒髪がさらりと揺れる。
そんな様子にナユリスが気付き、彼女に声を掛ける。
「お、マイリア起きたのか。おはよう」
「──おはよう、みんな」
彼女の名はマイリア。彼女は後に、伝説の能力者『召喚者』として、歴史に名を残すことになる。
これは、長い長い前日譚。
ある能力者達による、何てことのない、普通の日常だ。
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