何てことのない、普通の日常

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 ***  ────同じ夢を、見ていた気がする。  顔も知らない誰かが、私の名前を呼んでいる。ただそれだけの夢だ。そのはずなのに、あの夢から目覚めた後、胸の辺りがきゅっとなってしまうのは何故だろう。  私は今、たったひとりの家族を探す旅に出ている。きっかけはの手紙に添えられていた、1枚の黄ばんだ写真だった。  幼い頃の自分であろう黒髪の女の子と、隣の少し年上の女の子。この子が今もどこかで生きている、私の家族だと書かれていたのだ。 「きっと……見つかるよね」  首にかかるペンダントをそっと握りしめる。祖母の遺物であるこの私の手に渡って以降は、お守りとして常に身に付けている。  朝を告げる鐘の音が、滞在中の街の中央から鳴り響く。人々はその音を機に1日の活動を開始する。  出店が多く活発な街。簡素だが暖かみのある街。海沿いの景色が綺麗な街。食べ物が美味しい街。  絵を売りながら、今までたくさんの街を見てきたが、私の家族に関する情報はほぼ無かった。  ホテルをチェックアウトし、街を歩きながら、今日は南の方へ行こうと計画を立てる。 「──泥棒よ! 誰か捕まえて!」  突如、女性の叫び声が道中に響き渡る。  声の居場所は、前方5m辺りの店の入り口付近だった。この辺りは治安が悪いのだろうか。 「うわっ……と」  ドンっ、と肩に衝撃が走り、黒い帽子を深く被った男と目が合う。  そのまま走り去ろうとした男の右肩に、女物のバッグが掛かっているのを確認した私は、すぐさま男の肩を掴む。そして関節技を仕掛け、バッグを手放させた。 「んなっ⁉︎」 「先程の方、お受け取りください!」  ボール投げの領域でバッグを女性に向けて投げる。無事にキャッチしたようで、女性は「ありがとうございます!」とヘコヘコ頭を下げた。私も軽く会釈をする。 「……テンメェ、女のガキが調子コキやがって!」  胸倉を掴まれた、と思った瞬間には、既に体は地面に叩き付けられていた。  背中が痛い。視界がチカチカする。  痛みに耐えられず、私は地面で意識を失いそうになった。 「っつう……」 「俺を怒らせるなよ? 燃やすぞ」  きゃああっ、と周りから悲鳴が聞こえた。  気力だけで目を開けて男をよく見ると、手の中で赤いモノが揺らいでいた。  ……なに、これ。 「この俺に手を出すとはイイ度胸してるなァ。テメェはこの俺の炎に焼かれて死ねるんだ。せいぜい感謝しろよ?」  目の前が熱い。  絶対にあり得ない現象を、男は生み出している。  この男は、本気で、私を殺そうとしている。
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